ゆゆめも

読んだ本と生活のこと

【読書】映画『MINAMATA』では描かれなかった ユージン・スミスと「封印」された写真の行方

f:id:yuyu-life:20211018085059j:plain

ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』山口由美 著/小学館/2013.4

 現在公開中の映画『MINAMATA』を観た。公害について初めて学んだのは、確か小学生の社会科の授業だったと思う。教科書に使用されていた写真がモノクロだったからなのか、ぼんやりと戦前戦後のかなり昔のことのような印象を持っていたので、映画がおしゃれな音楽とNYビル街の映像で始まってちょっと面食らってしまった。

 本編は、國村隼チッソ社長の不気味な恐ろしさ、ユージンがカメラを渡してしまう水俣病を患った男の子、同じメロディーが繰り返されるピアノ曲がとても印象的だった。内容はユージンのライフワークとしての水俣に焦点を当てた映画で、水俣市民との関わりはそれほど詳しく描かれていなかったので、補完のために『ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』を読む。

 この本では、ユージン・スミス水俣での活動を、かつてユージンのアシスタントをしていた石川武志ら関係者に取材しつつ、最も知名度の高い水俣の写真「入浴する智子と母」が、「封印」されるまでの経緯について迫っている。本書では、この写真の被写体となった智子以上にユージンが入れ込んでいた人物は他にもいることが語られているが、映画のクライマックスもこの写真を撮るシーンだったことからも、この写真の美しさと残酷さが、当時も今も世界中の人の心を揺さぶるものであることは間違いない。

 封印されてしまった背景には、この写真が写真展のポスターやチラシに使用され、雨の中踏みつけにされていたことを知った被害者家族の葛藤がある。写真を「撮る側」と「撮られる側」、そしてその写真を「見る側」の責任について考えさせられる1冊だった。

 この写真は実際に映画のワンシーンで使用されている。映画館という閉鎖的な環境ではあるが、長い間封印されてきた経緯を考えると、特別な意味を持つと思う。