ゆゆめも

読んだ本と生活のこと

【読書】絵画の楽しみを身近に『いちまいの絵』

f:id:yuyu-life:20211219194946j:plain

『いちまいの絵 生きているうちに見るべき名画』 原田 マハ 著/集英社/2017.6

 絵画鑑賞は他の芸術に比べて、昔からなんとなく敷居が高かった。音楽であれば同じ曲を演奏しているとき、採点競技のスポーツであれば同じ技を披露しているとき、素人目にもどちらが上手いか、美しいかはなんとなく分かる。しかし、絵画は画家によって使う材料も、何をモチーフとするかも異なれば、描かれた時代にもかなりの時間の隔たりがある。比較することができない分、絶対的な審美眼が必要とされるような、一見さんお断り、の空気をどことなく感じて、美術館を訪れることはあっても、今までなんとなく相入れないままだった。

 今回読んだ『いちまいの絵』は、現在全国巡回中のゴッホ展を最大限楽しみたいと思い、手に取った。大学で美術史を学び、美術館での勤務経験もある著者による本書では、著名な画家の26枚の絵の鑑賞のポイントが、その絵との出会いのエピソードとともに丁寧に解説されている。著者の絵画鑑賞は、いつも何気ない生活の延長線上にあり、絵画を「観る」というよりも、絵画を「体験する」という印象を受ける。

 描かれた時代の潮流や画家の一生、描画の技術や構図の秀逸さを理解していることで楽しめる面白さももちろんあるが、この人物が何を考えているのだろう?この人は何を指さしているのだろうか?とストーリーを想像する楽しみかたもありなんだ、と少し安心。絵画を鑑賞するのにそこまで気負わなくていいのかも、と思わせてくれる一冊。