ゆゆめも

読んだ本と生活のこと

【読書】できれば一生踏み入れたくない!漂流めしの世界『漂流者は何を食べていたか』

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『漂流者は何を食べていたか』椎名 誠 著/新潮社/2021.7

 自らを漂流記フリークと語り、実際にその足跡を辿る旅までしてしまう著者による、他に類を見ない、漂流グルメの紹介本。取り上げられている本は、過酷な環境を奇跡的に生き延びた人々の体験記だけに、どれも食べることは生きること、を体現した、エネルギッシュで創意工夫に満ちたものばかりだ。

 漂流者たちは生きるためにペンギンやシロクマの肉を生食し、ウミガメの血で喉を潤し、海水から塩を得る方法を考える。どこを漂流するか、季節はいつなのかなどによって、食料も異なってくるのが面白い。

 特に印象的だったのは、本書の序盤で取り上げられている『奇跡の生還<119日間の漂流>』(ジョン・グレニー、ジェーン・フェアー著)。船が転覆して絶体絶命の中、4名の船員のひとり、ジムが作る料理(魚のマリネや揚げパン、グレービーソースも作ってしまう!)のおかげで、無事に陸地にたどり着けるかもわからない先の見えない状況すら忘れてしまうほどだ。

 残念ながら紹介された漂流記の多くは絶版になっているということだが、これまで漂流記というものを読んだことがないので、もし自分が漂流したときのバイブルとして(そんなことは一生ないと願いたいが)、読んでおくのもいいかもしれないと思う。

 

【読書】ひとり暮らし初心者に役立つ 『ひとり暮らし 月15万円以下で毎日楽しく暮らす』

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『ひとり暮らし 月15万円以下で毎日楽しく暮らす』すばる舎編集部 著/すばる舎/2021.4
 

 著名なミニマリスト本をひととおり読んで感化され、ここ数年で持ち物を半分近く減らした。引っ越しの際に「ベッドがなくてもいいのでは?」と思い、ひと月ほど敷布団生活をしていたら、快方に向かっていた腰痛がぶり返してしまった。

 必要なものは人それぞれの状況によって違う、ということが嫌でも身に染みる一方で、つつましく暮らしたいという思いは変わらない。そんな中読んだこの本では、7名のインスタグラマーやブロガー、ユーチューバーらそれぞれの必要十分な暮らしが紹介されている。

 女性で独身、収入もそれほど自分と変わらない7名の等身大の暮らしは、自分の生活にも取り入れられそうな工夫が多く、参考にしたいと思った。

 7名の中でも特に際立っていたのが、6番目に紹介されているあおみさん。自分の時間を過ごすために契約社員を辞め、ガスの契約をせず、洗濯機も持たない。LINEでつながる友人も数人で、電車・バスも使用しないという清貧生活ながらも、それを節約と感じず、むしろそうした生活を楽しんでいるということが印象的だった。

  これから一人暮らしを始める人や、一人暮らし初心者におすすめの1冊。

【読書】映画『MINAMATA』では描かれなかった ユージン・スミスと「封印」された写真の行方

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ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』山口由美 著/小学館/2013.4

 現在公開中の映画『MINAMATA』を観た。公害について初めて学んだのは、確か小学生の社会科の授業だったと思う。教科書に使用されていた写真がモノクロだったからなのか、ぼんやりと戦前戦後のかなり昔のことのような印象を持っていたので、映画がおしゃれな音楽とNYビル街の映像で始まってちょっと面食らってしまった。

 本編は、國村隼チッソ社長の不気味な恐ろしさ、ユージンがカメラを渡してしまう水俣病を患った男の子、同じメロディーが繰り返されるピアノ曲がとても印象的だった。内容はユージンのライフワークとしての水俣に焦点を当てた映画で、水俣市民との関わりはそれほど詳しく描かれていなかったので、補完のために『ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』を読む。

 この本では、ユージン・スミス水俣での活動を、かつてユージンのアシスタントをしていた石川武志ら関係者に取材しつつ、最も知名度の高い水俣の写真「入浴する智子と母」が、「封印」されるまでの経緯について迫っている。本書では、この写真の被写体となった智子以上にユージンが入れ込んでいた人物は他にもいることが語られているが、映画のクライマックスもこの写真を撮るシーンだったことからも、この写真の美しさと残酷さが、当時も今も世界中の人の心を揺さぶるものであることは間違いない。

 封印されてしまった背景には、この写真が写真展のポスターやチラシに使用され、雨の中踏みつけにされていたことを知った被害者家族の葛藤がある。写真を「撮る側」と「撮られる側」、そしてその写真を「見る側」の責任について考えさせられる1冊だった。

 この写真は実際に映画のワンシーンで使用されている。映画館という閉鎖的な環境ではあるが、長い間封印されてきた経緯を考えると、特別な意味を持つと思う。

【読書】力士は豚肉を食べないって本当? 『英国一家、日本を食べる』

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英国一家、日本を食べる』 マイケル・ブース 著/亜紀書房/2013.4

 この本は、ジャーナリストであり料理人でもある著者が、家族とともに約3か月ものあいだ日本を旅し、各地の食材や料理に舌鼓を打つ紀行記だ。著者に言わせれば、SMAPのメンバーのうち3人はぱっとせず、広島で味わった日本酒は「石油っぽい」し、沖縄ではゴーヤの苦さに対して「いったいどういうつもりだ?」と怒りを露にする。

 しかし、読み進めるうちにその正直な人柄が分かってくるからこそ、筆者が美味しいと感じたときの感動が鮮やかに伝わってくる。

 また、食材の栽培や収穫、料理の背景や伝統まで詳細な取材に基づいて記述されており、日本に住んでいる人々にとっても新鮮な驚きがあることは間違いない。食べ歩き以外の旅行中のトラブルや家族や友人とのエピソードも、まるで料理の隠し味とばかりに良い味を出している。

 いわゆる「ニッポンすごい」系のテレビ番組にうんざりしている人にもおすすめできる1冊です。